私は体を離し、ユベールと向き合った。紫色の瞳が、寂しげに私を見つめる。その下にある口は、一度グッと(つぐ)んだ後、ゆっくりと静かに開いた。

「僕の家、焼けちゃっただろう。リゼットもサビーナさんの養女になったし。今後のことを思ったらね。ちょっと心配になったんだ」
「何を?」
「今のリゼットは、人間だ。もう、人形じゃない。自分の意思で、どこにも行けるじゃないか。一つの街に留まる必要だってない。行きたい場所に行ったって、誰も何も言わないよ。リゼットにあれしろこれしろって強制する人間は、誰もいないんだから」
「でも、私はこの時代を知らないし、昔だって……」

 サビーナ先生が言ったように、私は元々、世間を知らずに生きてきてしまった。だから、どこにでも行けるとユベールは言うけれど、そんなことはできない。怖くて……。

「うん。だから、サビーナさんのところに行っちゃうんじゃないかと思ったんだ。もう、僕の世話になることはないからね。ここに居るより、いい生活ができるのは間違いないんだから」
「っ! そんなことないわ! ユベールがいたから私は人間に戻れたのよ。そんなすぐにお別れだなんて……考えられない」

 考えたくもない。