起きている時は、いつも何処か不安そうな顔をしているから、穏やかな寝顔を見ると安心できた。
 夜中、ふと目が覚めて、傍にいることを確認してしまうのもまた、それが理由だった。

 だけど今は、手を伸ばすことができない。リゼットはサビーナさんの養女。ここで無理やりリゼットを奪ったら、サビーナさんはどう思うだろうか。
 もうリゼットを、預けてもらえなくなる可能性だって否定できない。そうなったら僕は……。

「安心して、ユベールくんからリゼットを取り上げる気はないの」
「え? 僕はまだ何も……」
「ふふふっ。言わなくても分かるわ。大事なものを取られるのが怖いって顔に書いてあるもの」

 思わず右手で顔を隠した。

「だから、リゼットをベッドに運んでくれないかしら。私はフロントに行ってくるから」
「構いませんが、まだ何か用事が残っているんですか?」
「あら、察しがいいわね。本当は今後のことを話し合いたかったんだけど、リゼットが寝てしまったから、もう一泊、延長する手続きをしに行こうと思っていたのよ」
「因みに、その今後についてサビーナさんの意見を聞いてもいいですか?」

 もしもリゼットを連れて行く気なら、僕も考えを改める必要がある。この街を出ていくか、どうかも含めて。