今はヴィクトル様のお陰で竜の大移動はなくなったから、測定すら行われていない可能性もある。だからその負担も、相当なものだろう。

 もしかして、サビーナ先生が私を養女にしてくれたのは、そのためだろうか。今の私は、伯爵令嬢でもなければ、バルテ伯爵家の人間でもない。
 ユベールと同じ、孤児に等しかった。

「エルランジュ殿。この度のことは火災のことも含めて、娘に代わり謝罪させてほしい」
「お父様っ! なんでそんな奴に謝るのよ!」
「シビル。私たちの生活は、魔術師協会のお陰で成り立っているんだ。そんな口の利き方はするもんじゃない」
「そうよ。転移魔法陣の普及によって、商品の運搬がより早くなったお陰で、ラシンナ商会はここまで大きくなれたんだから。しかも、それに尽力してくださったのが、ユベールくんのお祖母様」
「エルランジュ殿がユベールくんの後ろ盾をしているのも、それが理由なのでしょう」

 そっか。ユベールのお祖母様は、私の代わりにマニフィカ公爵家へ嫁いできた魔術師。サビーナ先生が間を取り持っていても、おかしくはなかった。