貴族の婚姻は、家同士の繋がりを強くするためのもの。それと同時に家門も強化する行いだった。
 ヴィクトル様を愛されていた公爵夫妻なら、何の得にもならないバルテ伯爵家など、今回のようなことがない限り、到底選ばないだろう。

 魔術師としての勉強の他に、マニフィカ公爵夫人になるための教養を学んだ今なら、それがよく分かる。
 もしも順調にヴィクトル様と結婚して、子を成していたら、私もきっと同じように思うからだ。

「屋敷の中を案内するよ」

 部屋に通されても、鞄を開けずに立っていた私に、優しく手を差し伸べてくれたヴィクトル様。
 私はただ、こんなに広くて素敵な部屋を! と驚いていただけだったのだが、急に両親と離れ離れになり、心細いのだろう、と思ったらしい。あとで聞いた話だと。

 けれど、その気遣いがどれだけ嬉しかったか。
 だって、いずれはこの方と、というのに、最初からヴィクトル様に嫌がらせを受けていたら……もっと早くこの決断をしていたと思うから。