ラシンナ商会の一人娘、シビル・ラシンナ。
 ユベールがお世話になっている商店街の元締めであり、且つこの街でも指折りの有力家。それがラシンナ商会だった。

 シビルはそんな大店(おおだな)の一人娘であるため、本来ならば跡取り娘として、将来はラシンナ商会を率いていく存在、になるはずだった……。
 けれどようやく生まれた子どもだっただけに、甘やかすだけ甘やかしてしまい……結果、頭を抱える存在に……成り果ててしまった、というわけである。

 両親は、いずれは優秀な商人を婿に迎えれば、と思い好きにさせていたんだろうけれど……。

「来たわね、卑怯者!」

 最低限のマナーや礼儀は、学ばせなかったのかしら。

 サビーナ先生、ユベールと部屋に入っていく中、私を見た途端、シビルが叫んだ。
 姿を見られた記憶はないんだけど、これも人間に戻った時の影響なのだろうか。記憶の誤差に戸惑ってしまった。

 すると、私がそれに怯えたと思ったのか、さらに言い放つシビル。

「私の邪魔をして、私をこんな目に遭わせて、いい気味だと思っているんでしょう!」

 は?