今だって、向き合っている体勢が気恥ずかしいと感じるのに、それほど嫌だとは思わない。むしろ、このままがいい……って何を私は!

「リゼット」

 心の中で百面相をしていると、突然、名前を呼ばれて、額にキスをされた。思わず後ずさりをするが、ベッドの上にいるため、これ以上はできない。

「ゆ、ユベール!」

 一体、何を! と言いたいのに、名前を呼ぶだけで精一杯だった。けれどユベールは、そんな私を宥めるように、頬を優しく撫でる。

「ありがとう」
「え?」
「人間に戻れたのとか、敬語が取れたとか、色々あるけど、一番これを伝えたかったんだ。リゼットが助けてくれなかったら、僕はあのまま焼け死んでいたはずだから」
「焼け……っ!」

 そうだ。思い出した。赤毛の少女が松明を持って、ユベールはそれを止めようと……。でも結果的に炎はユベールと少女を包み込み、さらに家や草木にまで燃え移ったのだ。

 それなのに、ユベールを見ても傷がない。あんなに勢いよく燃えていたのに、どうして?

「……私はあの時、火を消すことができなかった。ユベールも酷い有り様だったはずなのに。あれ? 私、火の中に飛び込んだんだっけ?」
「どうやら、人形になった時と同じだね。人間に戻った時の前後の記憶が曖昧になっているんだよ」

 確かに。私はいつ、どのタイミングで人間に戻ったんだろう。サビーナ先生の力を借りることなく。