「人形の時はって?」
「う~ん。自覚なしか。近くに鏡もないし……」

 私の質問に応えずに、思案し出したユベール。説明し辛いことなのだろう、と思っていた矢先、突然、覆いかぶさるように抱き締めた。

「ゆ、ユベール!」

 体を横にしていたから、さらに困惑してしまう。背中に回った腕のお陰で、ユベールの重みは感じない。が、今度は上半身を起こされた。

 私は咄嗟に、宙に浮いた手をユベールの背に回し、服を掴む。と、そこで違和感を覚えた。

 腕が余る。もう少し伸ばせば、抱き返せそうな感じがしたのだ。私はそのまま掴んでいた手を離し、腕を伸ばす。すると考えていた通りの結果になった。

 さらにもう一つ感じる、違和感。
 そう、目線だ。ユベールの肩越しに見える景色がいつもより高い。いや、上半身を起こしたのに、ユベールの背後にある家具が、そもそも見えるはずがないのに……どうして?

「どう? 少しは分かった?」
「……もしかして、私……人間に戻れたの?」
「うん。あと敬語も取れたかな」
「あっ!」

 思わず体を引くと、ユベールは簡単に私を離してくれた。
 人形の時も、ずっと傍にいたはずなのに、ユベールの顔をこんなにも近い距離で見たのは初めてだった。いや、見つめ合ったのは。

 こうして見ていると、ヴィクトル様と似ていると思っていたユベールの顔が、違うように見えてきた。
 幼さは勿論のこと、いたずらっぽい笑みが特徴的なユベール。硬い表情が多かったヴィクトル様と違って、柔らかくて居心地がとてもいい。