私は目を開けて状況を確かめた。が、視界に映ったのは、一面の茶色。左右、上下と目を動かしても変わらない。
 頭を麻袋(あさぶくろ)か何かで覆われたらしい。

 そうだ、ナイフ!

 けれど気がついた時にはもう、腕が自由に動かせなかった。

「な、んで?」

 恐怖はない。すでに死を覚悟した身だ。殺されたって構わない。
 だからこそ浮かんだ疑問。

 名ばかりの婚約者を襲撃して、何の得がある? マニフィカ公爵家に与える影響など、何もない。
 それなら、ヴィクトル様が? いや、一週間後と言ったのはヴィクトル様の方だ。

 では一体、誰が私にこのようなことを?

 誰が。誰が。誰が――……。ヴィクトル様、教えて……。

 あぁ結局、私が頼れるのはヴィクトル様だけだったのね。

 さらなる悲しみに襲われた私は、それに耐えきれず意識を手放した。