「何を言っているの? 私がユベールを? あはははっ! そんなことをして、なんになるのよ」

 何でもないように笑うシビル。ここが僕の家の前でなく、シビルの家、ラシンナ商会だったら、他愛もない会話で済んでいただろう。
 けれど彼女は一人、ここで松明を持っている。日が暮れていないのにもかかわらず。

 持つ必要がない物を手に持っている時点で、それは異常な光景だった。しかしシビルにとっては何一つ、おかしくはないのだろう。上機嫌に言葉を続けた。

「そもそも私がユベールを殺す理由なんてないでしょう。私の気持ちに気づいておきながら、ずっと知らない振りをしてきたくせに。よくそんなことが言えるわね」
「それはこっちのセリフだよ。シビルの気持ちに応えるつもりがないから無視していたんだ。それも分からないのなら、いい加減、諦めろよ。迷惑なんだ」
「孤児のくせに、私に楯突くつもり!?」

 やっぱりシビルも同じだった。僕を服中させたい、異常な性癖の連中と。

「お父様からの紹介で、今の仕事にありつけたのに」
「そうだ。ご主人のお陰であって、シビルのお陰じゃない」
「でも、キッカケは私よ」
「……お礼はしたじゃないか」
「まさか、あれだけでいいとでも?」