「考えてみたら、自分で買い物に行ったことがないのだから、当たり前よね」

 誕生日や行事のプレゼントは勿論のこと。何でもない日でも、ヴィクトル様はお土産だと言って、私にくださった。
 昔から変わらないヴィクトル様の優しさであり、私の唯一の安らぎだった。

 大事にされている。錯覚でもいい。それを感じられる瞬間だったから。

 涙を拭きながら、引き出しから取り出す。
 勿論、ナイフを。カバーをゆっくり外し、両手でグリップを握り締める。さらに刃を自身の方に向けて、目を閉じた。

 これで準備は万端。あとは頭を少しだけ上げて、喉元にグサッと――……。

「うっ!」

 その瞬間、感じたのは痛みではなかった。けれど苦しい。

 一体何が起こったの!?