驚きのあまり声を出すと、赤毛の少女がこちらを向いた。そう、松明を持って。

「誰!」

 私は咄嗟に草の中に隠れる。けれど赤毛の少女は諦めてくれなかった。

「誰なの!」

 すると突然、玄関の扉が勢いよく開いた。

「シビル! そこで何をやっているんだ!」
「ゆ、ユベール!」

 さっきまでの勢いはどうしたのか、シビルと呼ばれた赤毛の少女はたじろいだ。その隙に私は再び、草から少しだけ顔を出す。

 あの子がシビル……。ユベールに迷惑をかけていた……少女。

 いや、ユベールのことが好きだから、気を引きたくて一生懸命なんだ。私もそうだったから分かる。
 ヴィクトル様に見てほしくて、でも我が儘を言えば嫌われてしまいそうで怖くてできなかった。

 けれどシビルは、自分の気持ちの(おもむ)くまま行動している。
 私もまた伯爵令嬢ではなく、侯爵令嬢だったらあれくらい積極的になれたのかな、と思いたくなるほど、羨ましく感じた。と同時に、危うさも……。

 いや、すでに松明を持っている時点で危険だった。
 恐らく「これで最後にしたいんだ」というユベールの言葉がトリガーになったのだろう。私にとって「婚約を破棄させてもらう」というヴィクトル様の言葉がそうなったように……。

 私は『死』を選び、彼女は『殺意』を選んだのかもしれない。そんな姿を見ていると、あの時の私にも、もっとたくさんの選択肢があったように思えて、胸が痛んだ。

 どうして私たちは、それを選んでしまったのだろう。そう思えば思うほど、切なく感じて仕方がなかった。