「さっきとは正反対の位置にある窓だから、音が聞こえても、多分、大丈夫かな」

 作業台からも、壁を隔てているから、防音になってくれるだろう。私はそこにたどり着くと、窓の鍵を開けて外に出た。

 両開きの窓だったこともあって、人形の私でも簡単に開けることができるのだ。しかし、また問題に行き当たった。

 まさか家の周りが、こんな酷い有り様だとは思わなかったのだ。
 確かに窓からは、背の高い草木が見えた。が、私の背よりも高いなんて……いや、窓の高さを思えば、すぐに分かることだった。

 それに今は、自分の身を隠してくれるのだから、感謝しなくては。けれど後で、ユベールに言うべきかな、とも同時に思った。が、今はそれどころじゃない。

 私は急いで家から離れた。
 何せ家の中にいても視線を感じるのだから、相手はすぐ近くにいたことになる。となれば、同じ距離から近づくよりも、遠くから相手の出方を見る方が得策だった。

 どう考えても相手は人間だろう。すると瞬時に、接近戦が不利だと判断したのだ。
 たとえ相手が子どもであっても、人形の私など、簡単に捕まえられてしまうのは、ユベールで経験済みだった。それならば取る手段は一つ。