どこまでも私は愚かなんだろう。残り僅かな人生さえも、自分のために生きられないなんて。けれど、すぐに変えることができるほど、私は器用ではない。

「それならいっそのこと、自分で命を断とうかな」

 私は立ち上がり、慣れ親しんだ机へと向かう。確かそこには、ナイフがあったはずだ。
 無くても、ペーパーナイフで喉を突き刺せば、死ぬことができるのではないだろうか。

 ふらふらした足取りで辿り着いた机の上には、何もなかった。ごちゃごちゃにしておくと、勝手に入ってくる使用人たちが悪さをするのだ。
 掃除という名目で、彼女たちは平気で物を盗んだり、時には壊したりする。

 隙を見せればやられる。私にとって、マニフィカ公爵邸はそんな世界だった。

 だから、机の中も最小限の物しか入っていない。その証拠に開けた瞬間、カラカラと物が流れる音がした。

 そう、広い引き出しの中をペンが、私の方に向かって転がって来たのだ。と同時に目に入ったのは、一本のナイフ。
 茶色い皮に包まれたそのナイフは、確かヴィクトル様にいただいた物だった。