「っ!」

 もしかして、聞こえていたの!?

 私は慌てで鞄を何度も叩いた。何で注意してくれなかったのよ、とはさすがに言えなくて。その代わりに。するとユベールは、鞄を優しく撫で始めた。
 まるで私を宥めるようにゆっくりと。けれど私の羞恥は、すぐに納まらなかった。

「やぁ、ユベールくん。待っていたよ。といっても娘の方だがね」

 そうこうしている内に、どうやら目的地に着いたらしい。知らない男の人の声が聞こえてきた。
 とても申し訳無さそうな声で、逆にいたたまれない気持ちなる。それはユベールも感じたようだった。

「すみません」
「いいんだよ。所詮(しょせん)、シビルの我が儘なのは私も知っているし、ユベールくんもその気がないこともね」
「すみません」

 ユベールの声のトーンが下がる。けれど相手の男の人は皮肉など言っていない。むしろ、謝罪に近いニュアンスだった。

 シビルとは……娘さんのお名前かしら。