そうだ。今の私は鞄の中にいても、人形として振る舞わなければ。突然、鞄からごそごそ音が鳴ったら不自然だもの。気をつけないと。

 私はゆっくりと息を吐いた。するとまた、鞄を叩かれる。一瞬、怒られたのかと思ったら、すぐさまベルの音が鳴った。

「いらっしゃいませ~」

 どうやら、ブディックに着いたようだった。

「あら、ユベールくんじゃないの。納品に来てくれたのね」
「はい。あと、注文の方も。ありますか?」
「あるわよ。でもその前に確認させてね」

 女性の声に促されて、小走りになるユベール。何も合図がなかったことから、その人に手を引かれているのかもしれない、と思った。揺れ方が、不自然なくらい小刻みだったのだ。

 それから間もなくして、椅子のようなクッションがあるところの上に、鞄が置かれた。いや、ソファーだろうか。
 ユベールが隣に座ったのか、その反動が伝わって来たのだ。

「これがこの間、注文をいただいた、白いレースのドレスと、同じレースで作った小物入れ。あと、色違いの黒いレースのドレスと小物入れです」
「ありがとう! うんうん。今回もいい感じの仕上がりだわ。友達がユベールくんの作るドレスが好きでね。出産祝いにあげたかったのよ」

 とても嬉しそうな声に、私も同じ気持ちになった。白いレースと黒いレースと聞いた途端、あぁあのドレスだと脳裏に浮かんだのだ。