王太子たる自分が、まさかそんな目に遭うなんて思っていなかったのか、ジェレミアはとても驚いているようだった。

 私は冷静に、ジェレミアのことを観察していた。今ではもう、怒りも湧かない。静かな覚悟だけだった。

 好きだった……すごく好きだったから、私以外の誰かと一緒に居るところを見て傷ついていた。

 だからこそ、私はジェレミアを好きなままでいたくて、いつも息苦しいほどの嫉妬の気持ちに耐えなければならなかった。

 けれど、もう好きでなくなっても良いと思えば、すごく楽だった。

 ジェレミアを好きでなくて良いならば、彼に好きになって貰わなくても良い。

 なんだって、私が言いたかったことを言える。

「なっ……なんなんだ? ミレイユ。これは……」

 愕然としているジェレミアからの質問を無視して、私は背後を振り返った。

 少し前から、なんだか様子がおかしかったジェレミア。きっと、私との婚約を邪魔だと思っているのかと思っていた。

 こうなることを予感していた私は、これまでに色々と準備だけは済ませていた。

 この準備なんて……使わなければ、それが一番良かったんだけど。