「エステイア嬢。もしや君は〝転生者〟なのかい?」

 思わず息が止まった。隣のサンドローザ王女も目を瞠ってヨシュアの麗しの顔を凝視している。

「あなた、転生のことを知ってるの?」
「そりゃ知ってるさ。数は少ないかもしれないけど、世界中に一定数はいるからね」
「うそ、あたしたち以外にもいるってこと!?」
「世界は広いんだよ? こんな狭い国の中だけで考えないほうがいいね」

 それまで黙っていた男たちも、躊躇いながらも説明を求めてきた。

「とても重要なお話のようですね。私たちにも話していただけますか?」

 と当たりが柔らかいはずのヒューレットが有無を言わさぬ圧をかけてきた。これは誤魔化しようがない。

「その、信じられないかもしれないんだけど」



 頭をぶつけて倒れて、前世のミナコを思い出してから三ヶ月。

 初めてエステイアは彼らに自分の秘密を話した。
 別の世界の日本という国で四十代まで生きた、バツイチ女性ミナコのことを。

「この際だから暴露しちゃう。私のパラディオ伯爵家は聖女の家って言われてるけど、私もお母さまのカタリナも全然聖女なんかじゃないの。ただ異世界から生まれ変わって、前世の記憶を持ってるだけ」

 どうも父テレンスとその甥の婚約者アルフォートも、エステイアたちが偽りの聖女であることを知っている節がある。
 少なくともそれを引け目に感じたせいで、亡母カタリナは父テレンスと離縁できなかったのではないか、とこれまでエステイアは考えていた。

 だが、話を聞いたヨシュアは「それは真実ではないと思う」と言った。

「いや、それは多分、この国独自の基準というだけだと思う。そこに光の魔力の持ち主至上主義の思想が混ざってごちゃごちゃになってるんだ」
「どういうこと?」

 パラディオ伯爵家の当主や嫡子が光や闇の魔力を持っていたら話は簡単だったのだ。
 実際、本編正ヒロインで現王妃のロゼットは平民出身だが光の魔力持ち。結果、王妃にまで成り上がった。

「異世界人は基本的に、この世界に役立つ知恵を持って生まれると聞いてるよ。オレの親しい人にも何人かいるんだ。その知恵が素晴らしくて役に立つから、この国では聖女認定してるってことだろ?」
「………………」

 ご当地基準の聖女ではないかという。

(その発想はなかった。そんなに単純な話なんだろうか?)

「だけど実態は知恵ある者、いわば『賢者』が正しいんじゃないかな」
「賢者……?」



 そこでヨシュアは、プリズム王国の外における、異世界の記憶を持つ者たちの情報を教えてくれた。

「異世界転生者や転移者と呼ばれる、違う世界から生まれてきた者には。前世や元の世界において、必ずこの世界になかった知識と技術を学んでいて、それを持ち込んでいる」

 実際、彼の故郷の幼馴染みが異世界転生者だそうで、日本という国の学生だったそうだ。

「日本!? うそ、あたしとエステイアもそこから来たのよ!」
「へえ。じゃあラーメンやオニギリって知ってる? ギョウザやチャーハンとか」
「知ってる……もちろん知ってるわ! あああ、聞いたら食べたくなってきた!」

 サンドローザ王女が悶えている。エステイアまで食べたくなってきた。

「オレの故郷や他国には転生者の集まる集落もいくつかあるんだ。有用な知識や技能を持ってることが多いからね。確か専門の研究書もあったと思う」

 ショウユやミソもあるよーと聞いて、エステイアとサンドローザ王女は頷き合った。

 全部終わったら探しに行こう。