「ここ、乙女ゲームの世界だ……」

 後頭部を硬い木の肘置きにぶつけて意識を失ったエステイアは、コブのできた後頭部に障らないよう、うつ伏せでベッドに眠らされていた。

 父親の暴挙への怒りや恨みより、衝撃的なことを思い出していた。

 起きるまでの夢うつつ状態で、エステイアは今の自分になる〝前〟の人生のことを思い出していた。

 地球世界の日本という文明の発達した国で、幼稚園から大学まで一貫のお嬢様学校に通学していた女性のことを。

 名前はミナコ。
 漢字は思い出せなかった。

 女性だらけの環境で育ち、大学を卒業した後は教育分野の上場企業に就職し、女性支援推進部なる当時できたばかりの部署に配属された。

 その部署の立ち上げメンバーだった年上の上司と社内恋愛の末に翌年、結婚。
 だが価値観の相違から二年後に子供もいなかったことから円満離婚して、その後は秘書課に移って取締役たちの社内外の活動のサポートに従事した。

 再婚願望はあったが離婚後、仕事が忙しく新たな出会いにも恵まれずに一人暮らしのまま四十代に突入してしまった。

 ちょうどその頃、体調を崩したのを機に閑職に移動させてもらって時間と、心と身体に余裕ができた。
 移動先は資料管理室。社内図書室だ。業務に必要な資料や書籍、書類などを整理し、データ化する部署だった。

 そこでの同僚は皆、年下の二十代の若い子ばかり。
 アラフォーおばさんだった前世のエステイア(ミナコ)は彼らと仲良くなりたくて、今どきの若い人たちが好きなものをいろいろ教えてもらった。

 すると皆、自宅にパソコンは持っていなくても、スマホだけはローンを組んででも最新の高機能機種を持っていた。
 なぜか尋ねてみると、スマホでゲームを遊ぶには古い機種だと画面表示がカクカク遅くなってストレスだからだそうで。

 若手の彼ら彼女らから、前世のエステイアは運命の再会を果たす。

 中学時代に夢中になった乙女ゲーム『乙女☆プリズム夢の王国』がシリーズ三十周年記念で、スマホのアプリゲームに復刻移植されたことを知った。