「そもそも、あたしたちって王家の親戚じゃない?」
「……遠縁だけどね」

 プリズム王家は王国のアヴァロン山脈から名前を取った、アヴァロニスなる聖者から始まる。

 アヴァロンはアーサー王伝説では伝説の聖剣エクスカリバーが作られた逸話のある楽園だ。
 この世界では山脈の名前になっていて、建国の祖アヴァロニスが今も仙人として住処にしているとの神話がある。

「もう随分前に王族が臣籍降下したのがあんたのパパの実家モリスン子爵家。今はあんたの祖父、大魔道士マーリンが当主よね」
「ええ、そうだけど」

 エステイアは母カタリナの葬式のとき一度だけ会ったことがある。
 かつて魔法騎士団の団長まで務めた偉大な魔法使いで、父テレンスの実父だけあって老いても美しい男だった。
 顔つきは厳しかったが、母親の棺を泣きながら見送る幼かったエステイアの頭を優しく撫でてくれた乾いた手のひらの感触を今でも覚えている。

(マーリンもアーサー王伝説の主要人物なのよね。魔法使いなのも共通)

「で、実は王家の正統はモリスン子爵家なわけ」
「……は?」

 笑えない冗談だ。

「知ってる人は知ってるのよ。プリズム王家は長子相続じゃなくて一番強い魔力の持ち主が王位に就くようになってるの」
「まさか、モリスン子爵家の祖先って」
「そ。当時の一番強かった王族が実力を隠して王家から外れたのね。しかも下位貴族の子爵家を興したことで、その後の王位継承権争いからも外れた。上手いことやったもんだわ」
「………………」

 モリスン子爵家は王家の遠縁だが、なぜか当主や子息子女たちには末端ながら王位継承権が授けられている。
 子爵家なのになぜ、とエステイアは思っていたがそういう事情なら理解できる。



「モリスン子爵家はまったく、これっぽっちも王位に興味なかったから王家も親戚だけど放置ぎみだったわけ。だけどあんたの祖父マーリンが出た」
「……プリズム王国の歴代最強魔法使い、だったかしら」
「子爵家なのに伯爵家以上が慣例の魔法騎士団長にまでなったでしょ。そこまではいいのよ」

 まだ何かあるのか。嫌な予感がする。

「マーリンの三男、あんたのパパのテレンス君が今この国で最強の魔法使いなのよ。実質、一番王位に近い男だったわけ」

 特大級の爆弾が来た。



「で、でも、お父様はとてもそんな強い人には見えなかったわ!」

 母カタリナが最強だったというならわかる。光と闇以外の全属性持ちだった。
 父テレンスはエステイアと同じで魔法属性は風のみ。そしてエステイアは父がパズル魔法以外を使ったところは見たことがなかった。

「あんたの目も節穴よね。『テレンス君の確変パズル魔法』」

 ぴた、とエステイアは混乱していた自分の動きを止めた。
 つい先ほど追放を言い渡し追い出す寸前、その魔法を体験したばかりだった。

「ステータス盛り盛り効果が最大で百倍。そんな効果の出せる魔法、テレンス君しか使えないわよ」
「まさか……そんな、お父様が……」

 だとすると王位継承権の持ち主の中で最も王位に近い者は父になるのか?

「当時の王家に王女がいたら婿に迎えれば正統がまた王家に戻ってきたけど、あたしの父さんしかいなかったから無理だった」

 そこで王家というより、当時の王太子アーサーがテレンスを自分の世話役、小姓として王都の学園に入学して側に置いたそうだ。

「それで変な野望を持たないよう躾けるつもりでいたところを、あんたのママのカタリナ様が危ういところで掻っ攫って婿にしたわけ」
「躾けるって……」
「BL的な感じで」
「やっぱりいいい!」

 ただ、とサンドローザは意味深に笑った。

「この辺の事情はBLストーリーでもそこまで深く語られてたわけじゃなかった。あくまでもあたしがわかる範囲での情報ね」

 母親の正ヒロイン、ロゼット王妃から聞かされた話も多いそうだ。

「あれ? じゃあお父様を追放なんてしてしまったから」
「ヤバいわね。早く追いかけて回収して保護したほうがいいんじゃない?」

 エステイアが血の気を失って青ざめたところへ、侍女のマリナが慌てて部屋に駆け込んできた。

「え、エステイア様、大変です! アルフォート様がお部屋におられません! お父上のテレンス様が連れ出したようで……!」
「!?」

 事態が大きく動き出した。