式場にいつまで経っても来ない花婿を迎えに、幼馴染みのカーティスが向かってくれた。

 しかし屋敷から戻ってきたとき伯爵家の騎士たちと一緒に連れてこられたのは、下着姿の男女二人。
 女のほうはガウンを羽織っていたが、その下は生肌の脚も露わだった。

「客間で婚儀の準備もせずにグースカ浮気相手と寝てましたよ。合体したまんまで」
「そのまま連れて来ようと思いましたが公序良俗に反するかと思って下着だけは着せてきました」

 騎士たちの報告を聞いて、またエステイアは頭が痛くなってきた。

 男女二人はそれぞれの身体にキスマークや噛み跡があり、如何にも情事していましたと言わんばかりの肌だった。

「そんな。約束が違う」

 傍らの父親が愕然として小さく呟いている。

(約束? 誰と? アルフォートと?)

 何の話か問い詰めたかったが、今は目の前の男女が先だ。

「どうやら、この結婚自体がなかったことになりそうですね」
「だ、駄目だ、この結婚だけは取り止めはできない!」

 エステイアが溜め息をついたが、父親テレンスが慌てて否定する。

 だが。



「お、おい。あっちの女のほう、見覚えがないか?」
「まさか……サンドローザ王女殿下!?」

(あーあ。やっぱり気づかれるわよね)

 ここで仕方なくエステイアは王家に恩を売ることに決めた。

「あらあら、皆さん。よくあの女性をご覧になって。淑女の見本と言われる王女殿下が、まさか臣下の娘の婚約者男性と、婚儀の当日まで不貞行為を犯して半裸で引き摺られてきた。そんな馬鹿なことあるわけありませんわ」

 ただ似ているだけの別人だ、と。

「さて、婚約者様の意見も念のため、確認しておきましょうか」

 下着姿で転がしていたアルフォートは引きずってくるとき騒いだようで猿ぐつわを嵌められていた。腕は拘束したまま外すよう指示した。

「こ、このような辱め、許し難い! エステイア、貴様とは婚約破棄だ、慰謝料を請求させてもらうからな!」

 この期に及んでよくもまあ。
 式場内の参列者たちも呆れてる。

 その後も理不尽なことを喚き続けるので再び猿ぐつわを嵌めさせた。
 女のほうは俯いて震えているだけなのでそのままだ。

(これどう収束させたらいいんだろう……泣きたい)

 しかしこのままでは何も解決しない。
 ただでさえ参列者たちは一時間近く待たせてしまっている。

「皆さん、お待たせした挙句このような顛末となりましたが、彼との婚約も婚儀も本人の有責で破棄となりましょう。大変申し訳ありませんが、本日はこれにて解散とさせていただきます」

 後日、顛末の報告と詫びの品を送ることを約束して、参列者たちにお帰りいただいた。

 婚約者と王女らしき女性は半裸で縛られたまま引きずられ、伯爵領の牢屋に収監させた。
 特にアルフォートは女伯爵との結婚で結婚詐欺を働いたようなものだ。貴族の犯罪行為なので国が裁くことになる。
 後日、国から派遣されてくる騎士たちに引き渡すことになるだろう。