この三ヶ月間、前世のミナコと乙女ゲームの知識をまとめたノートでいろいろ検証を続けてきた。

 前世と今世のコンフリクト、いわゆる人格の衝突は幸いほとんどない。
 エステイアにとってみれば、前世のバツイチアラフォーは忘れていた記憶を思い出したぐらいの感覚だった。

 前世で四十代だったミナコと、いま二十三歳のエステイアの生きてきた年数は合算されていない。
 あくまでも二十代のエステイアの肉体年齢の感覚のほうが強い。

 境遇は共通する要素がいくつかある。
 ミナコはお嬢様学校育ちの日本人で、同調圧力の強い日本社会で上手く社会人として生きてきた経験を持つ。
 エステイアは次期女伯爵として学んできた経験があり、貴族という特権階級の義務と責任を自覚して生きている。

 性格のベースは同じ。
 ただ、なあなあ気質の日本人ミナコと比べると、エステイアは主張すべきところはきっちりしている。
 父親に婚約破棄を堂々と訴えたところといい、周囲の言いなりになるタイプの女性ではなかった。

 普通に暮らして三ヶ月。自然と前世が今世に馴染んできて、エステイアという貴族女性としてもう違和感はなかった。



「問題があるとすれば……ここ、完全に乙女ゲームの世界でもないみたいなのよね」

 大筋は同じだが、細部まで見ると異なるところや、あるいはゲームでは不明だった点が明らかになったことも多い。

 例えば、『乙女☆プリズム夢の王国』では魔法があり、光と闇、火、地、風、水それぞれの属性に魔力が分かれている。

 ところが世界全体から見れば、魔力は万能化されているのが一般的で、属性分けしているプリズム王国は『遅れている』国だった。

 この国の魔力持ちは特定の属性の魔力を持って生まれるが、他国では使いたい属性に応じた魔石や魔導具を持つだけで自由に使いこなせる。
 プリズム王国だと、火を出せるのは火の魔力持ちだけ、風を起こせるのも風の魔力持ちだけだ。

「光の魔力も、他国では聖なる魔力と言ってるし。聖杯や聖剣みたいなアイテムへの認識も異なるみたいなのよね」

 他国では聖剣は剣聖と呼ばれる称号持ちが個人所有するし、聖なる武具やアイテムも似たようなものだ。

「聖女の定義も全然違うんだっけ」

 プリズム王国の聖女は国や教会が認定する。
 エステイアのパラディオ伯爵家は代々、聖女を輩出する家系だと王家が保証していた。

 この国以外では、聖女とは世界の法則の擬人化存在で、国に帰属することは滅多にないという。

「世界基準でいえば、この国の聖女は聖女とは言えない、か」

 乙プリでは聖女といえば究極アイドルみたいな扱いだったから、実態とは少々ズレている。