村藤コーポレーションの給料とボーナスで借金を返して、そのため質素な生活を余儀なく

されているのだ。

あやかは部屋に入ると、リビングのテーブルの上の書類を見つけた。

(ああ、これだ)

封筒には村藤コーポレーションと記してあった。

部屋の周りを見回すと綺麗に片付いてあるキッチンに目が止まった。

(へえ、社長、綺麗にしてるんだ、あっ、彼女さんよね、確か独身だったはず)

あやかは時計の時刻に慌てて部屋を後にした。

書類を胸に抱えて、社長室の前に立った。

大きく深呼吸をして、社長室のドアをノックした。

運良く秘書は就任式の準備で誰もいなかった。

ドアの向こうから潤一郎の返事が聞こえてきた。

「失礼します」

あやかは社長室に入った。

村藤潤一郎と八神あやかの出会いである。

この二人は十五歳の年の差がある。

潤一郎はデスクから立ち上がり、あやかに近づいた。

「ありがとう、えっと……」

潤一郎はあやかの名札を見た。

「総務部の八神さん、申し訳ない、助かったよ」