でも由美子は知っててなのか、知らないのか、相変わらずそっけない態度だ。

潤一郎はあえて素性を明かした。

「俺の父は、村藤コーポレーションの社長なんだ」

「だから何?」

「いや、何でもない」

はじめての反応に頬が緩んだ。

潤一郎はいきなりデートに誘った。

「由美子さんは今度の日曜日休み?」

「休みだったら何なの?」

由美子は変な男と思いながら、絶対にこの男の口車に乗らないんだからと思った。

潤一郎はくやしいが、イケメンでしかも爽やかで、笑顔が素敵な男性だ。

「デートに誘いたいんだ」

「誰を?」

「由美子さんを」

由美子は怒りが込み上げてきた。

二十歳の大学生が三十歳のおばさんをデートに誘うなんてありえない。

しかもほんの数分前に財布を拾っただけだ。

何をどう勘違いしても、ありえない。

「ふざけないで」

「ふざけてなんかいないよ」

「じゃあ、坊ちゃんの暇つぶし?」

由美子の言葉に潤一郎の顔色が変わった。

「俺は坊ちゃんなんかじゃない」