ララ・ファーレンは、名家貴族の次女として産まれた。栗色の髪と瞳は母親譲りで美しかったが、くるくるとした巻き毛は両親や姉の誰とも似ていなかった。肌の色は透き通るように白かったが、陶器のように真っ白な肌の姉と比べ、ララの鼻上と頬にはうっすらとしたそばかすがあり、ララは自分のことを醜いと認識していた。

 姉のダリア・ファーレンは栗色というよりも金髪で、サラサラのまっすぐな髪はいつもキラキラと光っていた。大きくて潤んだ瞳、小さな鼻、形のよいピンク色の唇は、誰が見ても天使のようで、両親は姉のダリアをこの上なくかわいがった。

 また、ダリアとララは容姿以外の面でも正反対であった。ダリアは物覚えが良く、気が利いていて、常に誰からも一目置かれるような存在であった。大人からは驚くほど賢い子だと褒め称えられ、同年代の女子はダリアに気に入られようと躍起になった。男子からはもちろん人気であったが、有力貴族の息子でなければ声もかけられないほど、高嶺の花のような女の子だった。

 一方、ララはというと、「普通」と少し違った。皆が一度でできることが、何度やっても上手くできなかった。忘れっぽく、複数のことを同時に行うことができず、焦ると何もできなくなってしまう。また、人との距離の取り方が分からなかった。意地悪をされても気が付かないし、お世辞を言われても、騙されていても相手が笑顔であれば信じてしまう。

 ララは当然のように周囲からは嘲笑の対象となっていた為、同年代の友人というのはいなかった。両親も、姉のダリアに比べ、あまりにも出来の悪いララを隠したがった。名家に産まれたにも関わらず、何の役にも立たないどころか、お荷物になっていると、ララは両親や使用人からも厄介者として扱われていた。

 姉のダリアは、唯一ララに対して攻撃をしてくることはなかったが、特別優しくしたり、庇ってくることはなく、できるだけ関わらないようにしているという雰囲気であった。
 ララ自身は、自分が家族のお荷物だという自覚はあった為、できるだけ目立たないよう、怒られないよう、迷惑をかけないようにしようといつも思っていた。ララは姉のことが大好きだった為、ララにとって、ダリアは自慢の姉だった。時折、ダリアがララのことを軽蔑したような冷たい目で見てくるのが少し悲しかったが、こんな不出来な妹で本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 今年、ダリアは19歳、ララは18歳になる。ダリアは学園を首席で卒業したが、ララは名家貴族には珍しく、高等部には行かせてもらえず、外でダリアと姉妹だと紹介されることもなかったし、そもそも外に連れ出されることもなかった。屋敷でまるで使用人のような雑務をすることがララの毎日であった。
 表立って使用人として働いている訳ではないが、庭の枯れ葉を掃くことと、花の水やりはララの仕事で、むしろそれ意外にララができることなどなかった。
 普通、貴族令嬢は年頃になれば、同じ貴族令息と婚約し、嫁ぐか婿養子を迎えるものだが、ララにいたっては、そもそも相手が見つからなかった。両親としては一刻も早くララを屋敷から追い出したかった。しかし、世間体もあるため、できるだけ娘として目立たないよう、最低限の雑用だけさせて寝食の面倒をみているような状況であった。