待っていたって、どうしようもない気がした。
体感ではなくて、もう確かに10分以上が経過している。
「帰ります。引き止めちゃって、ごめんなさ……」
「氷見さん!」
言いかけたとき、聞き馴染みのある声がわたしとそばに並ぶ人たちの間に割って入る。
わたしの腕を引きながら、背中に庇うように立ったのは高野くんで、わたしが何か言うよりも早くまくし立てる。
「誰ですか、何ですか。この子、おれのた……友人なんですけど何の用で」
「ま、まって、高野くんまって」
「なに、もう行くよ」
突然現れた高野くんに真っ向から警戒されて、声をかけてくれた人を含め全員がぽかんとしている。
そうしている間にも高野くんはさっさとこの場を切り抜けようとしていて、もし本当に危ない場面だったのなら正しい判断かもしれないけれど、この人たちはそうじゃない。
「わたしがひとりでいたから、気にして止まってくれた人たちなの。大丈夫だから、高野くん待って」
「絡まれてたんじゃなくて?」
「うん、そう。みんないい人たちだよ」
今度は高野くんがぽかんと呆ける。
掴んでいたわたしの腕を離して、ふらっとその場にしゃがみこむ。
「ほんっと、焦らせんな」
「ごめんね……」
「すみません、早とちり。勘違いした」
後に続いた言葉は、顔を上げて大学生たちに向けていた。
バツが悪そうに、高野くんは何度も頭を下げる。