目縁にふっくらと浮かぶ涙を、こぼれる前に手の甲で拭う。
落ちるまでは、泣いていないという自論だ。
体感で10分は経っている。
もう行こうと、俯けていた顔を上げたとき、ちょうど目の前を歩いていた大学生らしき数人のグループのひとりと視線がかち合う。
「えっ! 泣いてる?」
「あ、いや……泣いてない、ぜんぜん」
「いやいや泣いてるって、どうした、迷子?」
あたふたと、身振りは慌てながらも落ち着いた声で尋ねられる。
立ち止まったこの人は最後尾にいたようで、先を行く人たちに声をかけると一斉に立ち止まる。
「ほんとうに、何でもないんです」
「何でもないことないだろ。 高校生? こんな時間にひとり?」
「……ひとり、なのかな」
来ないのかな、そうしたら、わたしはひとりだ。
まだどちらかわからない、来るかもしれないし。
困惑しながらもどうにかわたしの状況を聞き出そうとしてくれるこの人の周りに、他の人も集まってくる。
事件? 家出? と憶測が飛び交うのを、小さな声で否定する。
言わなきゃ。
家はすぐそこで、コンビニに行こうとしていただけだって。
人を待っていた、とはわざわざ言わなくていい。
来るかもしれない、来ないと思うけれど、なんて見知らぬ人に話したらわたしは相当おかしく見られてしまうだろう。
たまたま立ち止まってくれたこの人たちは、多少お酒に酔っているようだけれど親切に話を聞いてくれた。
コンビニまで送ろうかとか、どうしても要るものじゃないなら今夜はやめときなよとか、優しい言葉をかけてくれる。