あ、声、初めて聞いたかも。
廊下で見かける時はいつも1人でいて、喋っている所を見たことがなかった。
少し低めだけど、思っていたよりも威圧感のない声だった。
「…」
お互い無言のまま空気が流れる。
知り合い以下だった私たちが話すことなど特に何もなく、会話が思いつかない。
き、気まずい…。もう席を離れよう。
「あ、ではごっゆくりお過ごし下さい」
そう言って立ち去ろうとした時、
「ちょっと待って」
と、矢熊くんに声をかけられた。
まさか呼び止められるとは思っていなくて、驚きすぎて大袈裟なくらいに肩がびくっと震えてしまった。
恐る恐る振り返る。