時間が歪んだみたいに1秒がとても長く感じた。
しばらく経って、はっとして、何か言わなきゃと思った。
矢熊くんは、特に目立つ存在でもない私のことを絶対知らないから、私が矢熊くんのことを知ってることをきっと不審に思ってるはずだ。
「あーあの、えっと、私矢熊くんと同じ高校通ってて、隣のクラスで。それで矢熊くんのことなんとなく知ってて…みたいな、感じで…」
しどろもどろになってしまって、我ながら説明下手くそだなと思う。
だって、噂を全部信じている訳じゃないけど、その見た目はやっぱり少し怖い。
私の言葉を聞いて、納得したのか、彼の見開いていた上瞼が徐々に下がっていく。
「ああ、そういうこと…」
ぽつりと、独り言のように小さい声で呟いた。