子どもの頃の記憶が過ぎる。
『はーちゃん、どうしてイタズラばっかりするの?』
『つーちゃんのこと好きだから、いっぱい遊びたいんだもん』
『イタズラばっかりするはーちゃん、好きじゃないなぁ』
『え……やだ! ぼく、つーちゃんと結婚するんだもん!』
はーちゃんが泣いていたのを思い出す。
『泣かないで。はーちゃんがいい子になったら、はーちゃんのお嫁さんになってあげる』
『本当!?』
わたしは笑ってうなずいた。

「本当は悪い男が好きだったんだ」
わたしを見下ろして、竹内くんが言う。
「そ、そんなんじゃないよ。やめて、竹内くん」
「隼人だよ、俺の名前」
「え?」
竹内くんはニヤリと笑う。
「いい子の振りするのやめた」
「は?」
「これから、本当の俺でつばさのこと落とすから」
そう言った彼の鼻先がわたしの首筋に触れる。
それからすぐに、強い刺激が走る。
「やっ——」
グイッと力を込めて、必死に彼を押し退ける。
「こ、こんなことするなんて! 家族に言うから」
「いいよ。言えば? もう学校でも助けてやらないけど、それでもいい?」
また、意地悪くニヤリと笑う。
「最低!」
わたしは眉を寄せる。
「俺、本気だから」
今度は真剣な目で見つめてくる。
それ以上何も言えなくなって部屋に戻った。
鏡を見ると、首筋の低いところにキスマークがはっきりと残っている。
「嘘でしょ……」
同居生活……それに明日からの教育実習、どうなっちゃうの?

fin.