午後4時。
「はぁっ」
帰りのHR(ホームルーム)を終えて教室を出た瞬間、思わずため息をついてしまった。
今日はまだ教室の後ろに座って授業を見学するのがメインだったというのに、小さな失敗を連発してしまった。
生徒の名前は間違えるし、急に質問されたら口ごもってしまうし。
「垣崎先生」
振り向くと、リュックを背負った竹内くんが立っていた。並ぶととっても背が高い。
「それ、職員室に運ぶんですか? 手伝いますよ」
わたしは生徒たちから回収したアンケート用紙を抱えている。
「ありがとう。でも大丈夫だよ、このくらい」
「僕、早く先生と打ちとけたいと思ってて。よかったら手伝わせてください」
なんてさわやかで嫌味のない子なんだろうと感心してしまう。
「じゃあお願いしようかな」
竹内くんはうれしそうに微笑んだ。
「垣崎先生はこの後もまだお仕事ですか?」
「ううん、今日はこれ置いたら帰っていいの」
やっと家に帰れるって、ちょっとホッとする。
「竹内くんは学級委員長なんだね。クラスの雰囲気もまとめてるって感じですごいね」
「つばさ先生にほめてもらえるなんて、光栄です」
「え、そんな。わたしなんて今日来たばっかりの——」
ん? 今『つばさ先生』って言わなかった?
「ねえ今……」
「ガラッ」と扉の開く音がする。
気づけば職員室に着いていて、竹内くんが扉を開けてくれた。
遠山先生にアンケート用紙を渡す。
「どうでした? 初日の感想は」
「失敗ばっかりで……先が思いやられます」
「僕だってそんなもんでしたよ、教育実習の時は。これからだんだん慣れていきますよ」
「そうですかね……遠山先生みたいになれる自信ないです」
「応援してるからね。困ったことがあったら頼ってください」
〝グー〟って感じに親指を立てた遠山先生は、ウィンクまでしてみせた。
こんな風に初対面の人にも明るくできるコミュ力がうらやましい。
「ありがとうございます。じゃあ今日はこれで」