「き、今日から2週間、みなさんのクラスで一緒に過ごすことになりました。先生を目指していますが、えっと、まだまだ勉強中なのでいろいろ教えてもらえるとうれしいです!」
窓から明るい日差しが降りそそぐ県立根津(ねづ)高校2年D組の教室。
わたしは、緊張を隠そうとできるだけ明るい笑顔であいさつをする。
垣崎(かきざき)つばさ、19歳の短大2年生。
今日からこの学校で2週間の教育実習を行う。
担当科目は世界史で、2年D組の担任の先生の補佐もすることになっている。
教育実習はほとんどの場合母校で行うため、当然わたしもこの学校の出身。
卒業してからたった2年しかたってないけど、教室のこの雰囲気がなつかしい。
「じゃあせっかくだし、今日は垣崎先生に出席をとってもらおうかな」
このクラスの担任の遠山(とおやま)先生が言う。同じく世界史担当の遠山先生は、茶髪にメガネで、先生にしては少しチャラいというか……明るい雰囲気で、たしか20代後半だって言ってたと思う。
〝先生〟の響きにうれしさと緊張がまじって、心臓がドキッと音をたてる。
「は、ひゃい」
「はい」と言おうとして、声が裏返った。
その瞬間に、生徒たちからドッと大きな笑い声が起こる。
あがり症なんじゃないかってくらい緊張しやすいわたしは、昨夜だって一睡もできないくらいドキドキしていた。
「かーわいー」
男子のからかうような声が聞こえて、また生徒たちが笑う。
最悪。これで絶対ナメられた……。
「短大生って何歳?」
「『ひゃい』だって」
女子のくすくすという笑い声も聞こえてくる。
教室内はザワザワとして落ち着かない。