5月。
「ねえつばさ、今日は——がうちに来る日——から、夕飯は外——わよ」
バタバタと出かける準備をするわたしに、お母さんがマイペースに話しかけてくる。
「えー? なんか言ったー?」
ドライヤーの音でよく聞こえなかった。
「も〜! だから、今日ははーちゃんがうちに来る日だから、夕飯はみんなで外に食べに行くわよ」
「ああそうだっけ。りょーかい」
それだけ言って、またドライヤーのスイッチをオンにする。
〝はーちゃん〟というのは年下のイトコ。
ご両親が海外転勤になったから、うちで預かることになったらしい。
「ひさびさだな、はーちゃん」
ドライヤーをかけながらつぶやく。
最後に会ったのは小学生の頃だったと思う。
やんちゃでちょっとイタズラっぽいところのある子だったっけ。小さくて、目がくりくりでかわいかった記憶もある。
って、今日のわたしにはイトコとの再会よりも重大な任務があるんだから、はっきりいって夕飯なんかどうだっていい。
ドライヤーが終わったら、着慣れないスーツに身を包んで髪を結ぶ。
ひとつに結ぶか、ハーフアップにするか悩むけど……ハーフアップに決めた。
鏡の前で最後のチェック。よし! カンペキ!
「いってきまーす!」