タイムスリップ

2020年6月
織田俊平29歳は。目の前に座っている荻野涼子26歳の顔を見るなり、思わず口を開いた。
織田俊平29歳「AKB48の指原莉乃って感じですね」
荻野涼子26歳「冗談でしょ。その口髭。昔を語っていますね。彼女にふられて髭を生やし始めたとか、そんな雰囲気します」
織田「いやいや。まいったなあ。当たりです、プライベートで図星です」
荻野「私は、テレビでキャスターやってます。宜しく」
織田俊平は、内心、びっくりした。そして荻野の身体をじっくりと見入った。綺麗だし、美人だし、可愛いし、ウエストもキュとしまってる。あまり、おおらかな胸には寂しい感じだ。
涼子は熊本の実家から東京に向う所だ。織田は機械メーカーの営業をやっている。熊本へ出張の帰りだ。東京は目黒区のマンションに一人住まい。涼子は独身で、明日から仕事。月曜日と水曜日に、朝の番組でキャスターしてるそうな。
織田「飛行機はお好きですか。隣の部屋でお食事でも一緒にどうです」
荻野「飛行機にはレストランはないですよ。いつの時代の人ですか」
織田「もうすぐ羽田ですね。宜しければ一緒にお昼。おごります」
荻野「ハイ」
涼子は、ハイと答えた。織田は14時までに会社に戻らないといけないが、こんな女子アナとの出逢いは、一生で一度かもしれないと、仕事は、報告だけだし、ドタキャンに踏み切った。涼子はポニーテールの髪に、首に縞模様のスカーフを巻いている。季節も春で陽気だ。織田は上着を脱いだ。織田はグレーのストレッチ地カーディガンが爽やかな印象を与える。涼子は、春だなあと少し、織田の事が気になった。
飛行機が乱気流に入り、少し揺れている。涼子の手からオレンジジュースが溢れた。織田はポケットからハンカチを差し出した。
織田は一瞬。脳裏に親友が浮かび感謝した。このハンカチにはちょっとした仕掛けがしてあるのだ。
織田「このビニール使ってください。そのハンカチは捨てて結構ですから」
涼子はビニールに入れて、バッグの中に締まった。織田は、つぎの言葉を投げるのをやめる。すかさず別の言葉を用意した。
織田「お昼は何を頂きますか」
ハンカチについて。涼子が言いたそうなのを遮った。このハンカチは彼女の中へ。その後の行方は織田にも予想出来ないが、突然。決行された作戦は見事に成功した。
羽田に着くと、織田は、涼子を浜松町へ案内して歩いて3分の場所にある。中華店へ誘導した。
織田「四川麻婆豆腐」が、自家製の花椒を贅沢に使用した一品で、花椒の芳香とクセになる辛味ですよ」
涼子は、感情豊かに紹介された。「四川麻婆豆腐」を注文する。
織田は一瞬。脳裏に親友が浮かび感謝した。
涼子「食事はいつも外食ですか」
織田は、毎日、外食だとは言わずに、別の言葉を用意した。
織田「たまに外食ですが、自炊してます。彼女はいません。よかったら、彼女になりませんか」
涼子は、織田の突っ込みについていけずついポロリと口
をこぼした。
「えっ。これ、私の電話番号です。宜しかったら」
織田は、涼子と電話番号を交換する。
織田「ここは、私が払います。次はお願いします」
食事が終わり、2人は外に出た。
織田「私はここで別れます」
織田は、涼子の姿が見えなくなった所でタクシーを呼んで、会社のある。目黒まで急いで直行したのである。
織田は30分遅れたが、会社に着き出張を報告した。
その日は、出張と言う事もありマンションに17時には着く。織田は幼なじみ安田晴子29歳に夕飯をご馳走になる。
安田晴子「俊平 私 いい歳じゃん」
織田「その話はご法度、俺、結婚する気ないから」
織田は飯を喰ったら安田の部屋を出て行く。20時からは週に一度の洋裁学校へ。俊平はここで洋裁を習っている。俊平の会社はカラオケ機器のメーカーで、介護施設やらでカラオケ療法を高齢者に指導している。そこで働いていた。副業で洋裁学校を開いてる木田篤子46歳の勧めでやって来ている。この洋裁学校での技能が変な事に役立っていた。
木田篤子「俊平 結婚しないの」
俊平は今日は2度も同じ言葉を投げられた。しかし、篤子には愛想良く対応した。
織田「見合いでもするかな。金はある。実家に帰れば土地もあるし」
篤子」田舎に帰るの」
織田「相手次第だよ。こうだと断言はできないが、色んな戦法は考えてる」
篤子「見合いしない。いい人紹介するわ。ちょっと待って」
織田は見合い相手の写真を見て。ぐっぐっときた。美人だ。しかし、介護をしてると言うのに、待ったがかかった。織田は断った。
荻野涼子は同じキャスターの安達ユキ24歳と居酒屋に来ている。
安達ユキ「ヘェー、ところで、木田達也君とうまく言ってるの」
涼子「あまり会ってない。仕事が忙しいみたいで」
ユキ「電話とかやってないの」
涼子「めんどくさいって」
ユキ「彼は真面目だからね。涼子は彼氏以外と電話番号交換してないの」
涼子はドキッとした。あの彼の手帳に私が登録されてるのをすっかり忘れてた。涼子は、何か。身体がほたってきた。2人は1時間程で別れた。マンションに帰り、浴槽に灯りを灯すと、洗濯籠の中に何か入っている。ビニール袋が目に入った。涼子は思い出した。しかし、彼の名前は誰だっけ。涼子は鏡に向かって。
涼子「彼の名前も知らないのに、電話番号交換した」
しかし、涼子は彼を消そうと言う欲求は生まれなかった。もう時間も遅いと思ったが、何故か洗濯したくなり、洗濯機のスイッチを入れる。居間に戻ると。明日バラエティ番組をやっている。涼子は出演者に何を馬鹿な事やってるのかとけなしたが、我に戻った。私は見ず知らずの男と番号交換した。思い出しても、涼子の性格からして、絶対あり得ない筈だった。
木田達也。民放番組プロデューサーである。涼子には、真面目を強調させている。暫くぶりに涼子と食事の約束をした。予約したのは、渋谷にある溶岩焼肉店。富士山の溶岩プレートによる230度の低温調理で黒毛和牛の旨味は最高である。
涼子は黒無地のTシャツ、デニムのミニマルコーデ。カジュアルな服装でやって来た。焼肉屋と言うのは達也から伺っていた。
涼子は入り口でキョロキョロしている。達也は、また、コンタクトでも落としたのかと、涼子を呼んだ。当たっていた、お手洗いに行き、眼鏡でやってくる。椅子に座ると、達也は手に何か持っている。涼子はピンときた。再びお手洗いに駆け込み、もう一度お化粧直しをして席に戻る。
涼子は達也の顔をじっと見る。達也は少しいつもと違う感じは、ピンときた。涼子の予感は当たった。
達也「一生ボクのそばにいてください」
涼子はひとつ返事でOKを告げる。
達也「来週のバラエティ番組でアイドルグループアフターンの高橋えり18歳と打ち合わせの前に、3人で食事をしようと思うけども。いい」
俊平は、仕事が終わりマンションに戻ると、アフタヌーンの音楽鑑賞が始まる。ファンで萩田帆風のファンだ。何回も何回も再生するのは、アフタヌーンが歌っている。「となりのバナナ」ちょっと大人びた雰囲気の顔が好みである。抜群のスタイルと美貌。アフタヌーンの中ではピカイチだし。セクシーショットがたまらない。
1週間が過ぎ木田達也は涼子と待ち合わせをした。そして、連れてきたのはアフタヌーンの高橋えり。

番組のタイトルは「ドジ選手権」素人の出演番組のゲスト。前髪は短くカットした。爽やか系のアイドルと言ったイメージのえりである。えりを2人に自己紹介をした。
えり「東京生まれ B型のさそり座です。最近はお笑い系の番組によく出演してます」
えりは木田達也の顔を見て一言付け加えた。
えり「バラエティ番組の、プロデューサーにしては、少し年配な感じ」
六本木タワービルの一階にある。喫茶店。サロンのように、天井が高く開放感に満ちた店内で、ゆったりとした感じ。達也は15時を過ぎているので、軽いケーキにコーヒーを注文する。店員が、お冷やをえりに出した時に。少し水が溢れた。慌てたのは、涼子であった。涼子は咄嗟にバッグの中からハンカチを取り出して拭いた。
えり「ありがとうございます。このハンカチは、洗って返します」涼子が差し出したのは、福岡空港で出会った彼のハンカチ。もしも、バッタリあったらと、バッグに洗濯して保管していたのだ。えりもビニールにいれてバッグにしまった。三人は夕方になり、えりがラーメンを食べたいと言うので、世界に羽ばたく『楽観』ここにあり。『鰹節』『煮干し』素材にとことんこだわった淡麗スープに仕上げの『高級オリーブオイル』に寄った。えりはマンションに一人暮らしである。部屋に帰ると。バッグを開けた。目に入ったのは、お冷やをこぼした時のビニールに入れたハンカチ。お水だからと、ビニールを開けて取り出すと。淡い水色のハンカチに綺麗に刺繍が、してある。どうも電話番号のようである。えりは、お礼を言おうと、刺繍してある番号に電話をかける。
えり「もしもし」
俊平「誰」
好奇心が大きい。18歳えりは電話を切らなかった。
えり「涼子です」
俊平「誰、涼子って」
えり「キャスターの涼子です」
キャスターと聞いてびっくりした俊平は言葉を続けた。
俊平「ハンカチ」
俊平は編み物の腕を自慢に、ハンカチに自分の電話の番号を刺繍していた。親友から、そのハンカチを持ってたら、天使がくるとはこの事かと疑わなかった。
えりと俊平は1時間近く、お喋りを続けた。俊平は、数ヶ月前に女優と運転手の一般人が結婚したのは、女優がプロポーズした話を覚えていた。
俊平「電話番号交換する」
えり「いいですよ」 俊平は、けして不良な性格ではない。前向きな姿勢が運を引き寄せていた。

マドモア「その婚約はちょっと待った。彼の運勢は今年は天中殺で最悪と出てる。何事も急ぎすぎると悪い予感が的中する」
涼子は。占い師マドモアとは、1年前からの知り合いである。その1年前にマドモアの予言は的中した。当時.涼子はアイドル歌手をしていたが、売れなかった。田舎に帰ろうかと迷った挙句にマドモアと知り合い。進路を伺うと、自分で決めるのはやめて、自然の成り行きに任せなさい。涼子はアイドルを引退した半年後に、功を奏してお天気キャスターの座を射止めたのである。
マドモア「木田の事は何処まで知ってるんだい」
涼子はハッと気づいた。交際してから半年。そんなに。お食事する事もなく、彼はいつも忙しいの連発。あの人の事はあまり知らない自分に気づく。
マドモア「それに。もう32歳だろ。独身と言うのはおかしい。なんか。あるんじゃないのかい」
涼子「何も聞いてないし、聞いた事はない」
涼子は、婚約の返事を少し延ばすことにした。木田は戸惑ったが、優しい言葉で、「いい返事待ってるよ」とだけ言われた。涼子は我にかえる。マドモアに電話をした。
涼子「クールな声に仕草で、いい返事待ってるよと言われた。最初は、ごめんなさいと思ったけども、この人はこの程度にしか私を思っていないのかなって、強引に言ってくれると思ってたわ」
マドモア「キザな野郎は、やめとき。身を滅ぼすよ」
涼子はマドモアに忠告を受けたのである。
アフタヌーンのリハーサルが行なわれている。キャスターの涼子が持ってたハンカチ。噂では、婚約間近らしいが興味しんしんだ。えりは名刺を貰っていたのを思い出す。リハーサルの休憩時間に電話をかけてみるがあいにく留守になっている。
涼子は占いを信じている。木田との婚約は破棄すると決めた。キャスターのアイドル化も進んでいる。涼子もリストラと言う文字がかすめてきた。「ドジ選手権」ある意味イメージチェンジするチャンス。リハーサルの日。木田も来ているが声をかけてはこない。涼子は後ろめたい気持ち。リハーサルも笑顔が出なくてディレクターに注意されるし落ち込んでいる。そこへ高橋えりが近づいてきた。
えり「荻野さん。ハンカチの番号に電話しました。涼子は何のことだか理解できない。その時にえりから事情を説明されて初めて知った。
涼子「えりちゃん、その織田さんと食事に行かない。何かの縁よ」
えりは心良くいい返事をした。
「来週に決めとく」
涼子は織田に淡い期待感を抱いたが織田の目に涼子は存在しなく。織田の心には高橋えりが入り込もうとしている。
俊平、涼子。えりの3人は渋谷にある居酒屋隠れ野にやって来た。涼子の提案でもあり。えりは俊平を涼子の隣に相席のポジションを確保するかと思いきや、俊平とえりが隣同士。他人から見ればカップルについてきた女性ひとりだが、涼子の目にはえりは子供に見えた。
えり「涼子さん。アイドルだったんでしょう」
涼子「アイドルやめたら老けちゃった」
俊平「見ようによっては。40に近づいてる気もする」
涼子はお世辞にも俊平に言われたのはショックだった。まだ30歳前。男の人の目に25はこう見えるのかに唖然。
涼子「織田さん。結婚するなら」
俊平「20まで」
えり「私は」
俊平「もちろんOK。最近のアイドルは普通って感じだし」
涼子「織田さん、電話していいですよ」
えり「えりも」
涼子は今時のアイドルはこれかとびっくりした。
涼子は木田達也に呼ばれた。
木田「4月の朝からの番組のキャスターは新番組と言う構成で荻野は交代だ」
涼子はだいたい察しはついていたが少しショックを受けた。
涼子は安達ユキと居酒屋に来ている。ユキは夕方からのキャスターで移動はない。ユキは涼子から織田の話を聞いた。
ユキ「今、ガタガタきてるだろうけど、早まるんじゃないよ」

織田は電話した。「六本木の居酒屋五郎で待ってる」涼子は会う事にする。
涼子「誘う人、間違えたんじゃない」 
織田「あの時は飲んだ勢い。一般人がアイドルに手を出したら、命を狙われる」
涼子「私も元アイドルよ」
織田は涼子がキャスターを下されたのを知り。びっくりするが、次の言葉を発した。
織田「まだ。26だ。そろそろ観念して結婚でもしなよ」
涼子「織田さんと」
織田「いいよ」
六本木の居酒屋五郎から店を出た瞬間に俊平の頭の中から予期せぬ言葉が突然湧いてきた。
俊平「今度の三連休に新潟行かない。ドラマ明日の君へツアー」
涼子は俊平の突然の言葉にまたしてもついついOKの返事をした。俊平は頭の回転が速いのか涼子の目には天才的なコミュニケーション力だ。
涼子「なんでまた明日の君へ。ハマったの」
俊平はハマった。頭の中には密かに、ドラマの中での主人公のキスシーンに俊平と涼子が重なり合っていた。
涼子は俊平にはキャスターを降ろされた事は内緒にする事にした。
俊平は1泊2日の予定と言った。マンションに戻った涼子は。26歳。俊平の事は何も知らないが、中身が大事とは言え勢いも大事だ。鏡を見ると顔がほころびている。そして、26歳にしては上出来だと言う表情だ。
涼子のコーディネートは、長袖のトップスに薄手のアウター。朝と夜の気温差を考えて、薄いコート。カーディガン。パーカーの下に半そで、マスク・眼鏡・サングラス。
俊平がエスコートした宿泊場所は、一生の思い出にしようと、ドラマのロケ地となったホテル。憧れの名場面のロケが行われたホテル。グランデ。に決める。
東京駅に2人はやって来た。涼子はなんかうかぬ顔だと察した俊平。
俊平「ホテルは別々の部屋を用意したから、朝は6時」
アワビ粥
・焼き魚
朝食を食べ終わると直ぐに、船着場に到着。東京からここまで、5時間。電車の中で涼子はちょっと舞い上がっていた。俊平さんはこの後何を考えてるのか理解できない。着いたらあの並木道。これが冬の日で俊平さんと雪だるま作って。一面が銀世界の中で、涼子が雪をビシャと宙にばらまいて。霜焼けになりそうな手を俊平さんがフーフーして血の気をとるの。そして、あの広場でのキスシーン。広場の左側に“銀杏の並木道”、
真ん中に“松の並木道”、右側にセコイヤの並木道”がずっと続いています。
松の並木道”のそばには朽ちた。大木の上を歩いていて、手を差し出して手をつないで歩くシーンです。大木の中から俊平が出てきた。
俊平は手を差し出した。涼子はその手に捕まって大木の上をフラフラと歩き出した。涼子は、「あっ」映画のようにはいかない、大木に足を取られて転げ落ちる。涼子は俊平と初めて手を繋いだ。感触をひとり空想したのでした。

涼子は俊平の事が頭から離れなくなる。俊平にとって涼子の存在は、人間は単調な毎日の中でたまに刺激のある日をもうけるのが。理想だ。思考の中には、えりが見え隠れする。俊平は、昨日届いた。えりからのLINEのメッセージ。「お話しはこれから、LINEだけにしましょ。私はアイドルだから」テレビのチャンネルをつけると、えりが、出演してる。それも、恋愛のバラエティー番組。えりは最近の恋愛話を語っている。その内容に耳がゾウの様に、大きくなる。「最近。恋してます。それが、少しだけ年配の男性です」同じ時間に涼子も同じ番組を観ている。えりの発言に涼子は身震いがした。

朝、目を覚ました。見慣れない光景だ。記憶が蘇る。40年前にタイムスリップして、品川駅で線路に飛び込む、そこから意識が消えた。今度は、何処へ来たと言うのか。
バラエティー番組で、「最近。恋してます。それが、少しだけ年配の男性です」と発言した瞬間、えりは気を失った。そして。救急車で総合病院に運ばれる。目を覚ますと、私。眞子の意識があった。真子は思い出した。40年前の世界で、龍太郎さんが品川駅で、電車に飛び込む瞬間を目の当たりにして、叫んでから、意識が消えた。