椎菜の執事の桜木さんが案内してくれた。

「あ!
浴衣、返すの忘れてた!
今日中だったよね?
返却期限……」

そういえば、楽しすぎて忘れていた。

「浴衣ならね、麗眞がレンタル店と話をつけてくれたわ。
明日、この家から宅配便で送る、でいいって。

むしろ、突然の雨で琥珀や深月が風邪ひいてないかを心配してたって」

椎菜がああ、そのことね、というような口調で話してくれたので、口をあんぐりさせてしまった。

「ごめんね、何か……
社会人になってまでいろいろ宝月の家にお世話になりっぱなしで。
今からお風呂まで借りちゃうし……」

それだけじゃない。

きっと、ロッカーにはルームウェアが用意され、リビングに戻ると入浴後のスイーツもあるのだろう。

「もう!
今更何言ってるのー!
親友なんだから、これくらい当たり前でしょ!

風邪ひかれたら寝覚め悪いからね」


そんな話をしているうちに、大浴場の前に到着したようだ。

「それでは、皆様方、ごゆるりと。

またリビングまでお戻りいただければ、お風呂上がりのハーブティーとスイーツもご用意してございますので」

ほら、やっぱりね。

「皆、今日はありがとうね」

はしゃぐそれぞれの子供を連れて歩く姿は、もう立派な母親だ。

そんな彼女たちに、私の声は届いていただろうか。

きっと、届いていただろう。

こんな親友を持てて、幸せだ。

そんなことを思った、夏の終わりだった。