帰り道。部活が終わるまで話し合いをして、結局仲の良い人とグループをつくったほうがメリットが大きいということで決まった。長い話し合いの間に計3回は喧嘩をしただろうか。2回目の喧嘩は先生が入るくらいに発展して俺も関係していた。3回目の喧嘩は坂内と井口の喧嘩でほぼ井口の屁理屈で始まり、またもや美優が収めた。
 凛はいつもより静かで、何か考えている様子だった。発言もあれ1回きりだ。どうしたのかと問うこともできず、ただ隣を歩いているだけだった。
 と、その時。いきなり凛が立ち止まった。
 「奏磨。」
 珍しく真面目に名前を呼ばれ、俺はびっくりして凛の顔を見た。凛は決意した顔をして、深呼吸をして言った。
 「すごく変なタイミングなのはわかってるし、隠してたことは謝るけど、私ね、白血病なんだ。中学1年生の健康診断で判明して、もう4年経ってるの。ずっと隠しててごめん。慢性骨髄性白血病で、比較的生きられる白血病なんだけど、もうすぐ急性転化になっちゃうかもしれない時期でさすがに言わなきゃなって。それで、だから、休むこと多くて。ずっとずっと言えなくてほんとにごめん。」
 理解しているかと言われれば理解していない。質問攻めにしたいかと言われればしたい。今何が起こっているかと問われれば何が起こっているのか分からないと答える。何を言えばいいのか分からなかった。
 「凛、死んじゃうの?」
 2分ほど経った末、出てきた質問はこの幼稚園児並みの質問だった。
 「死なないよ。まだわかんないけど。」
 凛はふふっと笑って言った。
 「さっき言った、急性転化っていうのが少し危なくて。もしかしたら急性白血病っていう余命がある白血病になっちゃうかもしれないの。そうなった時のために、言おうと思った。まだ心配しなくていいよ。ただ、わかってくれればいいから。」
 「わかってくれればいいって、そんな、いきなり言われても。」
 俺は地面を見ながらそう言う。全く頭が追いつかない。
 「わかってる。私だって、最近少し実感湧いただけで、全然まだわかんないよ。でもね、そろそろ向き合わなきゃいけない。どんどん症状も重くなってて、前に熱出して病院行った時、そろそろ覚悟した方がいいかもしれないって。まだ決定的な症状は出てないし、検査結果も変わりないけど、覚悟はしておいてって言われた。だから、奏磨も覚悟しておいて欲しい。私にいつ何が起こってもいいように。」
 顔を上げると凛は覚悟をしたような目でこっちを見ていた。ここまで頑張ったんだと伝わってきた。そんな凛のために俺も理解しなきゃいけないと思った。わかってあげなければならない。
 凛は目を逸らすと、また歩き出した。数歩遅れて俺も歩き出す。
 「学校ではこんなの忘れていいよ。邪魔でしょ?こんな話。それにまだ時間はあるから、ゆっくりでいいよ。」
 凛は振り向かずに前を向いてそう言う。スクバを肩にかけながら歩く凛の足は力強かった。1歩1歩、足を地につけて歩いていた。
 「じゃあ、また明日ね。」
 別れ道で、凛は振り向いて手を振った。俺も手を振り返した。凛は微笑み、街灯で照らされた道をまた歩き始めた。
 まだ、凛は、生きていた。