「メイちゃんセンパーイ、お疲れ様です♡」

「桃ちゃん、これから入り?」

「はい♡」

シャノワールに最近入ってきた桃ちゃんは、一個下の後輩だ。

ミルクティーベージュの髪を二つに括り、縦ロールに巻いている。

その髪型がメイド服とよく似合っていた。

日が浅いのに私なんかよりよっぽどメイドが板についついる、器用で出来た後輩だ。

「メイちゃん先輩がついてたお客さん、ちょっとかっこよくないですかぁ?」

桃ちゃんの目線が、客席の高野くんに向く。

うちのメイドカフェの客層は、年齢層が高いこともあり、若く、その上容姿が整った高野くんの存在はえらく目立っていた。

「実は、同じクラスの人なんだよね」

「えー、それ、めちゃくちゃ気まずいじゃないですかぁ。桃、同じ学校のやつに来られたりしたら、絶対耐えられんのだが」

口元を押さえた桃ちゃんの手の爪は、ほんのりと桜色に染まっていて綺麗だった。

彼女の学校は国際スクールで、髪染めも、メイクもネイルもオールOKらしい。

私の学校もメイクはできるけれど、

私はバイトの時に薄づきにするだけで、学校ではノータッチだった。

「でも、私のこと気づいてなさそうだったな……」

「そうなんですかぁ?」

もし私が桃ちゃんみたいに可愛かったら、

身だしなみにきちんと気を使えて、

甘え上手で、

分け隔てなく人と接することができる人間だったら、

高野くんに気づいてもらえたんだろうか、

……なんて。



「おい、そこ! くっちゃべってないで、五番卓にパフェ持ってけ」

「っ、すみません」

キッチンの佐野さんに睨まれ、私は、慌ててパフェを受け取った。


しかし、桃ちゃんによって、スッとトレーごと取りあげられる。

「あのイケメンさんにですよね? 私行ってきまーす♡」


「あ、ありがとう」

本当に桃ちゃんは抜け目がないというか何というか。

……でも、これでよかったのかもしれない。

桃ちゃんの背中を見送りながらそう思った。