「これじゃラチが明かない。ふっ飛ばしてみるか」

 一旦空中に舞い戻った俺は、遺跡をみおろし、中心部に向けて手のひらを向けた。

「ファイヤーボール!」

 かつて、初級魔法として馴染みのあったその言葉を、俺は口にした。瞬間、手のひらの前に何十メートルはあろうかという巨大な火の玉が浮かび上がる。それは以前の記憶とはかけ離れた、圧倒的な存在感を放っていた。

「何だ!? このサイズは!?」

 すぐに炎の塊は遺跡へと放たれる。その光跡は、まるで流星のように美しく、そして恐ろしかった――――。

 刹那、世界が激光に染まる。

「うわっ!」

 反射的に俺は目を覆った。しかし、全身が燃えるような熱線に貫かれる。

「ぐはぁ!」

 続いて、轟音と共に衝撃波が押し寄せた。

「くっ……!」

 グルグルと回りながら空高くへ吹き飛ばされてしまう俺。

 必死に姿勢を制御して何とか回転を止めたが、その目の前に広がる光景に、言葉を失う。

 遺跡があったはずの場所に、巨大なきのこ雲が立ち上っていた。その紅蓮の輝きは、まるで血に染まったかのように見える。

「こ、これが……俺の力?」

 俺は自分の手のひらを見つめる。昔、海で爆発させたファイヤーボールとはもはや別物。深刻な大量破壊兵器だった。

 周囲を見渡すと、数キロ四方の木々が根こそぎなぎ倒されている。石造りの建造物は跡形もなく消え去り、その跡地には黒々とした穴が口を開けていた。

「これじゃあまるで……核戦争だ」

 俺は改めて自分の異常な力に恐怖を覚え、ブルっと震えた。


       ◇


 俺は遺跡跡の大穴に降り立った。焦げた匂いが鼻をつき、溶けかけた石の熱気が顔を焼く。

「あーあ、やりすぎたなぁ……」

 不安定に積み重なった瓦礫を前に、俺は立ち尽くした。

 良く見ると瓦礫の奥に、通路の入り口らしきものが見える。

「おっ、これは行くしかないよな……」

 いつまでも悔やんでいても仕方ない。俺は気分を入れ替え、宝探しに集中することにする。

 ポイポイと巨大な瓦礫を放り投げていくと、地下への通路の全貌が現れた。暗闇の中へと続くその道には精巧な彫刻が並び、気分も俄然盛り上がってくる。

「さ〜て、お宝は残ってるかな……?」

 俺は魔法で光の玉を浮かべると、地下へと続く通路へと潜って行った。


          ◇


 暗闇を穿(うが)つように進むユータの足音が、カツーン、カツーンと響く。石造りの通路は、まるで時の流れから取り残されたかのように、冷たく、そして静寂に包まれていた。魔法の明かりが幽かに揺らめき、その薄暗がりの中で、ユータの影が不気味に伸びては縮む。

「ここも、昔は賑やかだったのかな……」

 俺は、(おのれ)の呟きが虚ろに響くのを聞きながら、慎重に歩みを進めた。索敵の魔法を張り巡らせ、わずかな変化も見逃すまいと神経を研ぎ澄ます。湿った空気が肌を這い、鼻をつくカビの匂いが、この場所の長い眠りを物語っていた。

 やがて、通路の先に小さな部屋が姿を現す。朽ち果てた異常な量の扉の残骸が床に広がり、かつてこの場所が人の手によって封じられていたことを示していた。

 俺は息を呑み、そっと部屋の中を覗き込む――――。

 そこには、ぼうっと微かに紫色の光をまとった一本の剣が佇んでいた。

「これは……?」

 俺の鑑定スキルがステータスを表示する。

東方封魔剣(とうほうふうまけん) レア度:★★★★★

長剣 強さ:+8、攻撃力:+50、バイタリティ:+8、防御力:+8

特殊効果: 魔物封印


「キターーーー!」

 興奮で手が震えた。初めて見る★5の武器——それは伝説の域に達する代物だ。国宝どころか、一国の命運を左右しかねない存在に違いない。

「まさか、こんな場所で出会えるなんて……」

 俺はこの世紀の大発見にグッグッとガッツポーズを連発させた。

 しかし、その喜びもつかの間、俺の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。

「封魔剣……? つまり、この中に何かが封じられているってことか?」

 俺は剣に手を伸ばしかけた手を止める。この剣に封じられた存在は、かつて国の威信をかけても誰も倒せなかったからこそ、ここに眠っているのではないか?。

 放たれている紫色の光がまだこの剣が生きていることを示している。であれば、その封じられた魔物もまだ存命ということだろう。

 もちろん、レベル千を超える自分にとって、どんな敵も恐れるに足りないはずだ。

 しかし――――。

 絶対安全な保障などない。

 俺の心が揺れた。

 剣を抜けば、未知の冒険が待っている。しかし同時に、計り知れない危険も潜んでいるかもしれない。

「でも、俺は……」

 ユータは深く息を吸い、決意を固める。

 安全に振った人生などとっくに捨てているのだ。どんな敵が現れようと、必ず倒してみせる!

「来るなら来い!」

 ユータの手が剣の柄に触れた瞬間、冷たい感触が、まるで長い眠りから目覚めたかのように、ユータの体に電流を走らせた。