卒業生のみなさんが去ったあとで、ようやく私は学校の外へ出られた。強い風に抗いながら、急いで卒業生のみなさんを追って広場へ向かう。

 記念撮影をしたり語り合ったりしている卒業生たち。
 先輩はここにいるだろうか。
 さっき渡した紙を見てくれただろうか。

『あとで少しお時間いただけますか?一つお伝えしたいことがあるんです』

 何も話せないまま先輩がそそくさと帰ってしまう可能性だけは防ぎたかった。
 というのも、先輩は本っっ当に帰るのが早い。毎日ホームルームが終わってすぐ靴箱へ向かっていたけれど、先輩の靴があった試しはなかった。

 今日も先輩は帰っているかもしれない。

 もし先輩がさっき渡した紙を見た上で帰ったのなら、私が先輩に避けられていただけのこと。それなら諦めるしかない。

 祈りながら先輩を探すけれど、見当たらない。
 自分の視力が仕事をしていない可能性に賭けて、私は風に吹かれながら、広場を出ていく人を観察することにした。

 しばらく経って、人影がまばらになっても、先輩の姿は見当たらない。
 なんとなく予感はしていたけれど。先輩はすでに帰っていたようだった。

「……そっか」

 目を閉じて、ぐっと伸びをする。
 暖かい風に背中を押されるようにして、よろよろと家へ歩き出す。

「先輩、今までありがとうございました」

「本当にお世話になりました」

「……好き、でした」

 心の中にあるどんより雲と一緒に、ぽつりぽつりと吐き出した言葉は、もちろん先輩には届かないまま風とともに飛んでいく。