卒業式はつつがなく終わった。先輩を含めて、卒業生のみなさんは最後のホームルームに臨んでいることだろう。
で、私たち在校生(卒業式に出席できなかった人を含め)と、3年生を担当していない教職員のみなさん、あと保護者のみなさんはというと。
ホームルームを終えた卒業生が通って学校を出る「花道」をつくっている。
といっても、先生の指示に従って、卒業生が通るであろう部分の両脇に並んでいくだけだ。
二、三クラスを拍手で送り出したあとで、先輩のクラスが花道に姿を現した。
……見つけた。
「先輩!」
声を張り上げながら列に駆け寄ると、先輩は私に視線を向けた。
目が合う。いつも通りの、恐ろしいほどに澄んだ瞳。
感情が一切読み取れないのに、温かみが伝わってくるような瞳。
拍手の音、風の音、喋る声――全ての音が消えた、気がした。
「えっと、これ……!」
四つ折りの紙切れをそっと差し出すと、先輩は微笑んで受け取ってくれた。
「ありがとう」
先輩の笑顔に寂しげな雰囲気が混じっているような気がして不安を覚えたけれど、引き留める前に先輩は歩き去ってしまった。
――ありがとう。
先輩の声が、耳の中でまた響いた。