「ん……」

 まぶしい日差しに照らされて私は目覚めると、すぐ隣の窓についているクリーム色のカーテンの隙間から光が差し込んでいた。

 いつもならば一日働き続けて凝り固まった身体が軽い。
 頭も妙にすっきりとしているし。これはいったい……?

 辺りを見渡せば、ブラウン調の家具にはちみつ色の壁紙。
 そして今私が座っているベッドは、なんと天蓋付きでふかふかとしている。
 まるでどこかのお城のベッドのよう。

「そうだ、私、オズ様の家でお世話に……はっ!! しょ、食事!!」
 
 私、ここで食事を作るという仕事を任されたのよね?
 でもいったいどこに行けば……ていうか、私の服は!?
 いつの間にやら綺麗な白のネグリジェに着替えさせられている自分の姿を見下ろして、さぁーっと血の気が引いていくようだった

 昨夜自分がどうやってここまで来たのか全く覚えていない。
 加えて服は真新しいものに替えられている。

「まさか私……とんだ醜態を……? 突然脱ぎだしたか、あるいは……オズ様に襲いかかったか……!!」
 私が一人混乱に混乱を重ねていたその時──コンコンコン、と小さなノック音が響いた。

「セシリアー、私よー」
 この高い声、カンタロウ?
「はい、どうぞ」

 混乱する中私が彼女に入室の許可を出すと、扉がバンッと勢いよく開け放たれた。

「おはよーっ!! って、どうしたの!? すんごい顔してるけど……」
「え、あ、おはよう、ございます? あ、あの、私、どうしてここに……」
「俺が連れてきた」
「オズ様」
 扉の方から声がかかり、そちらに視線を移すと、むっすりとしたオズ様が扉に背を預けて立っていた。

「昨夜の魔法薬茶には、眠り草を少々入れていたんだ。まぁ、ゆっくり眠れたようで何よりだ」
「ぁ……魔法薬茶の作用、だったんですね。その、お手数おかけしてすみませんっ」

 急いでベッドから飛び降りてオズ様に頭を下げると、あきれたようにため息が一つ落ちた。

「君のそれは厄介な癖だな。そんなに謝る必要はない。そんな誠心誠意の謝罪は、ここぞって時に取っておくものだ」
「は、はい、すみま……えっと、わ、わかりました。あの、それでその……私、も、もしかして、オズ様を襲ってしまったんでしょうか!? 服も違うし……もしそうだったらと思うと私……!!」
「は……はぁぁぁあ!? ちがっ、ふ、服はこれが着替えさせたんだ!!」
 そう言ってカンタロウを勢いよく指さすオズ様の顔は、耳まで真っ赤だ。
 うぶなのか?

「カンタロウが? え、でもカラス……」
「こうしたらできるのよ」

 カンタロウがくるりと一回転すると、一瞬にして真っ黒いカラスから十歳程の女の子へと変身してしまった。
 両サイドで三つ編みにしたあめ色の髪に、金色の目、黒のお仕着せ姿の少女は、ふふんと鼻を鳴らし「どう? 可愛いでしょう?」と私を見た。
 その色味はいつか絵本で見たグリフォンそのもの。

「え。カンタロウ? すごく可愛いわ……!!」
「でしょでしょ? 私たち、人型にもなれるの」
「ちなみに僕はこんなだよ、カッコいいだろう?」

 まる子はなんと長い黒髪を一つにまとめた長身の、なんとも美しい男性へと変化していった。
 ぴっしりと着こなした執事服がよく似合っている。
「すごい……!! まる子、カッコいいね」
 魔法生物の神秘だ。
 そんな二匹の変身に夢中になっている間もひたすら私から少し視線をずらしているオズ様に気づく。

「あの、なんでオズ様はさっきから私から目をそらしているのでしょう? 私、何かしてしまいましたか?」
「自分の格好を理解してくれ」
「へ? ぁ……」

 今の私の格好は薄く白いネグリジェ一枚。
 ほぼ下着に近いものだ。
 それに気づいた瞬間、私の顔の熱が急上昇する。

「お、お見苦しいところを!!」
 急いでベッドの上から布団を引っ張り出してそれを身体に巻き付ける。

「い、いや、別に見苦しいとかじゃ……!!」
「オズ様のむっつりー」
「スケベー」
「むっ!? ち、違うからな!? とにかく、厨房の場所と着替えは彼女に教えてもらえ。衣類は昨夜一通り揃えさせたから、不足はないはずだ。俺は広間にいるから。し、失礼する!!」

 早口でそれだけ言い捨てると、オズ様はまる子を連れて部屋をあとにした。

「……ねぇカンタロウ」
「何?」
「オズ様って……意外とうぶなの?」
「……オズの名誉のためにも、ノーコメントよ」
「……」

 うん、着替えよ。