しばらく話をしてから神殿から出ると、辺りをすでに紫紺のベールが覆っていた。
冬期は暗くなるのが早いというけれど、今が一番早い時期なのかもしれない。
少し前までは明るい青空だったというのに。
「さて、そろそろいいくらいの時間ですね。町に行きましょうか。皆が待っています」
「町?」
屋敷じゃなくて?
首をかしげる私の手を取り、お師匠様はにっこりと笑った。
「今日は特別な日なのです。さぁ、行きますよ。目を瞑って」
「は、はい」
特別な日って何だろう?
私はすっきりしない思考を巡らせながらも言われたとおりに目を瞑り、お師匠様の手を握り返し、再び私の身体は風に包まれた。
***
「良いですよ、目を開けて」
「はい──っ!? これは──」
目を開けてすぐに飛び込んできた世界は、ひどく幻想的な世界。
場所はいつもの噴水広場。
だけどいつもと違うのは、たくさんの色とりどりのランタンが広場や建ち並ぶ店、それに家にまで飾られ、冬の夕刻の闇を幻想的に照らし出していることだ。
「綺麗……」
噴水広場の周りにはテーブルがいくつも用意されて、その上には美味しそうな料理や果物、ケーキが並べられている。
そしてそこには、こちらを笑顔で見つめる町の人達の姿。
その中にはオズ様やまる子、カンタロウ、ドルト先生やルーシア達もそろっている。
「皆さん……これはいったい……?」
私が呆然と問いかけると、ミトさんが一歩前へ踏み出していつもの豪快な笑顔で言った。
「セシリア様、お誕生日、おめでとうございます!!」
「へ……」
たん……じょうび……?
ミトさんが声を上げて、それから次々と「おめでとう」という祝福の声があちらこちらから上がってくる。
え。これ……えっと……。
「なにをぼーっとしてるんだ? 今日は君の誕生日だろう?」
「へ……ぁ……」
そうか、今日が……。
ほんの一週間前には覚えていたというのに、聖女の力の修業やルーシアのことですっかり忘れていた。
「ドルトに聞いて、町の皆や師匠に協力してもらったんだ」
「私の……ために……? 何で……なんでそこまで……」
私は、ただの出涸らしなのに。
ただの、居候なのに。
目頭が熱くなって、鼻の奥がつんとする。
「当たり前だろう。君は私の助手で、家族みたいなものなんだから」
「家族……」
私が……オズ様の……。
「町の皆にとっても、君は大切な存在だ。もうすでに、町の一部なんだ。素直に祝われていればいい」
「もう!! 遠回しすぎなんだから!! オズはこう言いたいのよ!! 生まれてきてくれて、俺と出会ってくれてありがとう。俺と家族になってくれて俺は幸せだ、ってね」
「曲解するな」
人型になって皆に混ざっているカンタロウのフォローになってないフォローに、不満そうにしながらも顔を赤くするオズ様。
「とにかく、これが君の誕生日パーティだ。たくさん食べなさい」
「っ、はいっ……!!」
たまらなくなった私は、零れ落ちた一筋の涙をぬぐうと、一目を気にすることなくオズ様の腕の中へとダイブする。
「お、おいっ!?」
オズ様の焦ったような声が耳元で響く。
「やるわねセシリア!! 今日は無礼講よ!! どんどんイチャイチャしちゃいなさい!!」
「待ちに待ったオズの春……。僕ら嬉しいよ……」
「私も師匠として感慨深いです」
「良いなーオズ。セシリアちゃん、あとで俺にもハグしてねー」
「ドルト先生は自重くださいまし!! 二人がついにくっついたのですから!!」
「貴様ら……」
カンタロウにまる子、お師匠様にドルト先生、それにルーシアの言葉に低い声でうなりながらも、私を抱きしめ返す腕は優しく、心がホカホカと温まる。
もう十年以上祝われなかった誕生日。
だけど行われた数少ない誕生日パーティの中で、この日が一番暖かく幸せなパーティーになったのは、間違いない。