「……ええ、もちろん覚えていますとも。アヴェルド兄上の婚約者を忘れたりはしませんよ。流石の僕でも」

 私の言葉に対して、エルヴァン殿下は少し頬を赤らめていた。
 それはなんというか、先程までの自分の態度を恥じているようだった。つまりあのやる気のない感じは、身内に見せるものだったということなのだろう。
 私にとっては、それは安心できることだった。家族の前でだらしなくなるというだけなら、それ程問題ではないと思うからだ。

「今更格好つけてももう遅いと思うぞ?」
「まあ、それはそうですかね。まったく、イルドラ兄上も人が悪い。リルティア嬢がいるならいると言ってくだされば良かったのに」
「気付かないお前がおかしいんだと思うが……」
「……しかし、何故リルティア嬢が?」

 エルヴァン殿下は、少し遅れて私がここにいることに疑問を持ったようだった。