彼には、王族としての役目を果たそうなどという気はないらしい。本の虫であるとは噂されていたが、思っていた以上に曲者であるようだ。

「さてと、まずはここにいるリルティア嬢のことを把握しておいてくれ」
「リルティア嬢……ああ」

 イルドラ殿下の言葉に、エルヴァン殿下は驚いたような表情をした。
 やはり彼は、私のことにまったく気付いていなかったらしい。結構近くにいたのに気付かないとは、余程本に意識が集中していたということだろうか。
 何はともあれ、これでやっと私も挨拶ができる。エルヴァン殿下とも初対面という訳ではないが、ここは改めて自己紹介しておくとしよう。

「エルヴァン殿下、お久し振りです。私はエルトン侯爵家のリルティアです。覚えていらっしゃるでしょうか?」