「書庫にある本を全て読むためには、一秒たりとも無駄にしたくはありません。兄上の話が有意義であるとも限らない以上、そちらを優先する理由にはなりませんね」
「ひどい言われようだな……ただ今は由々しき事態だ。お前のわがままを聞いてる場合じゃあないんだよ」
「なっ……!」

 イルドラ殿下は、強引にエルヴァン殿下から本を取り上げた。
 それにエルヴァン殿下は、不愉快そうな顔をする。それ程に本を読みたかったのだろうか。

「大体、四六時中こんな所に籠って本を読むなんて、健康に悪いぞ。目も悪くなっている訳だし、もう少しお天道様の元に出た方がいいんじゃないか?」
「健康のことはもう諦めています」
「諦めるんじゃありません」

 不貞腐れた表情をしながらも、エルヴァン殿下はイルドラ殿下の言葉に応えている。