私は、イルドラ殿下とともに王城の書庫に来ていた。
 イルドラ殿下が、ここにいるとある人物に用があるそうなのだ。
 その人物が誰であるかは、すぐにわかった。書庫の中にいる一人の青年は、私もよく知る人物だったのだ。

「エルヴァン、少しいいか?」
「……」
「おい、無視するなって。これでも結構、大事な話をしに来たんだから」
「……この本を読み終わってからで構いませんか?」

 イルドラ殿下の呼びかけに、エルヴァン殿下は少し不機嫌そうな顔を返した。
 彼は、この国の第四王子である。詰まる所、イルドラ殿下の弟である訳だが、その仲は良いという訳ではないのだろうか。

「本なんていつも読んでいるだろう。今は俺の話を聞くことを優先してくれ」