ウォーラン殿下が出した名前に、私は思わず固まってしまっていた。それがまったく聞いたことがない名前だったからだ。
 ただ状況的に、それが誰の名前かは予想できた。それはきっと、彼が知っているアヴェルド殿下と関係を持っていた女性なのだろう。

「リルティア嬢、どうかされましたか?」
「ああ、えっと……」

 私の動揺は、ウォーラン殿下に伝わっているようだった。
 彼はきっと、違和感を抱いているだろう。私の反応は、どう考えたっておかしいものだ。
 なんとか誤魔化すべきだろうか。いや、それは得策ではない。どうぜアヴェルド殿下の婚約相手が、ネメルナ嬢であることを彼は程なくして知るだろう。それなら、私が取るべき反応は今のままで合っている。

「その、ウォーラン殿下は一体誰のことをおっしゃっているのですか?」
「……なんですって?」
「私が知っているのは、オーバル子爵家のネメルナ嬢という方です。ラウヴァット男爵家のメルーナ嬢とは、一体誰なのですか?」