それは恐らく、私がアヴェルド殿下との婚約を破棄したことが、耳に入っているからだろう。
 そういった相手に、なんと声をかけるべきか。彼は悩んでいるようだ。

「……アヴェルド殿下とのことなら、お気になさらないでください。これでも良き選択をしたのだと思っていますから」
「リルティア嬢はお優しい方ですね。兄上と愛する人が結ばれるように取り計らうなんて、中々できることではありません。弟として、あなたに感謝いたします。兄上のために、ありがとうございました」
「いいえ、別に全てが善意の行動という訳ではありませんから。こうすることによって、自分達が有利になるという打算もあるのです」

 ウォーラン殿下は、私の裏の事情なんて知らない。故にまた私は、演技を始めなければならなかった。