「アヴェルド殿下、少しよろしいでしょうか?」
「リルティア? どうかしたのかい?」

 ネメルナ嬢との会話が終わったアヴェルド殿下の元を、私は訪ねていた。
 彼はいつも通りの紳士的な笑みを浮かべながら、私を快く受け入れてくれている。

 それだけ見ていれば、好青年にしか見えない。だが、実際は婚約者がいる身でありながら、他の女性と関係を持っている。
 なんというか、あの一瞬の出来事で彼に対する信頼というものは、なくなっていた。

「ネメルナ嬢という令嬢のことを聞きたいのです」
「……何?」

 回りくどいことは嫌いだったため、私はすぐに本題を切り出すことにした。
 それに対して、アヴェルド殿下は目を丸めて驚いている。私の存在など、まったく気付いていなかったということだろう。