イルドラ殿下は、私のこれからのことについて心配してくれているようだった。
 その気遣いは、とてもありがたい。ただ、こちらとしては少々胸が痛くなってくる。

 アヴェルド殿下と婚約破棄した私が求めるべき新たなる婚約者、それが誰なのかは明白だ。私は今、そういったやましい考えを持って、イルドラ殿下と接している。
 それがなんというか、彼に対して申し訳ない。純粋に善意から心配してくれているであろう彼に対して、私は笑顔を向けられそうにない。

「それで、ネメルナ嬢の方はどうなんだ?」
「動向を探っていますが、今の所特に動きはありませんね……ですが、こちらの方から仕掛けてみたいと思っています」
「仕掛ける?」
「ええ、今回の件について、エリトン侯爵家もできるだけ上手く立ち回らなければなりません。そのための準備を始めようと思っています」

 イルドラ殿下が話題を変えてくれたのは、私にとって幸いなことだった。
 私は余計な考えを振り払いつつ、イルドラ殿下との話に応じるのだった。