私は、その男爵家のことをそこまで知っている訳ではない。モルダン男爵やシャルメラ嬢と、顔を合わせたこともないくらいだ。

「アヴェルド殿下の事件の始まりは、そもそもシャルメラ嬢です。彼女が関係を持ったことから、全てが始まりました。それには、モルダン男爵も関わっていた。というよりも、彼が首謀者ともいえなくはありません」
「ああ、そういうことらしいな」
「モルダン男爵家には、男子もいるはずですよね? シャルメラ嬢がマルシド様に嫁ぐという話でしたから、家を継ぐ男子がいると思うのですが……」
「確かに、モルダン男爵家には男子がいる。サジェードという男だ。何れモルダン男爵を継ぐはずだ」
「その方は事実を知らなかったのでしょうか?」

 私の言葉に、イルドラ殿下は目を丸めた。